篠懸高校シリーズ

『いつかあなたが手にした何かは、まだそこにありますか?』
そう帯に書かれた本、『サマー・スメル』。元々、読書は特に好きな訳では無い。嫌いでも無いがつまり、積極的に読まないと言うことだ。
ミコトから渡され、台本を書くために読んでみたが、すらすらと読める良い話だった。
『前触れも無く送られてきた手紙。昔の友達に誘われ、二年ぶりに田舎へ戻ることにした『僕』。
三時間の帰路の中で出会う様々な人と触れ合う内に何かを思い出していく』
少し不思議な感じをいかに表現するか、台本なんて書いたことが無いから、夜中の一時にようやく使う場面を取り出せた。三〇分でできるようにまとめるのは大分苦戦しそうだ。
むぅ、眠いな。明日から夏休みとは言え、夜更かしは良くない。
いや……よく考えたら、別に今日仕上げる必要は無いんじゃないか?
ふと頭にニヤリと笑う元凶が浮かぶ。……流石は幼なじみと言ったところか。
「あー、よく分かってるな」
寝ようかとも思ったが、やりっ放しと言うのはどうにも気持ち悪い。
流石は幼なじみと言ったところか。
パソコンのキーを叩いて叩いて叩いて叩いて……八杯目のコーヒーを飲み終わる直前で完成。気付いたら、夜中(?)の四時だ。ザッと完成品を読んでみる。初めての割にはなかなかの出来だと思う。
よし、寝よう。下手したら昼まで寝るな、しょうがないしょうがない。

――思いやり無い元凶は朝九時に我が家の目覚まし、つまりインターフォンを鳴らした。
殺す気か……。
這うようにして外へ出ると、ミコトも何故かグッタリしていた。
「おはようぅ……お疲れ様ぁぁ」
這うように吐き出された声もやはりグッタリ。
「えっと、どうした?」
何故か頑張った俺が少し申し訳無さを感じた。
「いや、ヒロ君のことだからスッゴい一生懸命やってくれるんだろうなぁって思ったらさぁ」
ふらふら近付いてきて、パタリと体ごと倒れた。腕で支えようとしたが間に合わず、地べたにドシャア。も、申し訳無いです。
「台本、私もしっかり完成させるべきだなぁぁってぇ、あぅぅ」
……吐くなよ?
「完成させたら五時だよ……あぅ」
それなのにこの時間に起床ですか。
「わ、分かった分かった。とりあえず上がれ、台本見せ合おう」
上がるなり勝手に冷蔵庫を開けて牛乳を一リットル飲み干しやがった。
「ふっかーッつ☆さぁ、台本見せてッ」
白いヒゲをつけた酔っ払いに努力の結晶を渡す。こうやって印刷された紙を見ると、達成感があった。分厚いなぁ。
途中、
「あぁ、動作も書かなきゃダメだよね……忘れてた」
とか、
「このシーンってヤッパリ重要なんだ」
とか、色々不審な呟きが聞こえた。ミコトの台本をパラパラ読むと、セリフのみ書かれたかなり不思議な作品だった。
二〇分、じっくり時間をかけたミコトはゆっくり顔を上げる。台本をソッと傍らに置くと長く一回息を吐いて、突然、
「君は最高だよッ!!」
抱きつかれた……抱きつかれた?! 俺は一瞬の間の後、引き離そうとするが、どうしても離れない。
さながら口の中の髪の毛。
「ヒロ君、国語得意? そして演劇好き?」
「どっちも、お前よりはな、って言っておこう」
抱きついた状態から繰り出された頭突き。
危うく出血するところだった、主に鼻から。
言うまでもないが、成績は圧倒的にミコトの方が良い。彼女の名誉のために言っておこう。
「よし、これで行こうッ。ダメなら、練習中に直そうッ」
良いのかそれで。
ミコトは自分の分のコピーをして、それを終えると、「じゃあ私は寝るッ」と残して去っていった。本当に嵐のようなやつだ。
一安心したところで、俺も寝ることにしよう。きっとスッゴいよく眠れるだろうな。

まだまだ続く☆

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篠懸高校シリーズ

しばしの休憩を終え、げんなりした俺と生き生きとしたミコトは体育館の飾り付けを始める。他にも数人の有志がいた、恐らく先生がとっつかまえたのだろう。
作業は特に面倒も面白さも無く淡々と進んでいく。
実際、飾り付けと言っても椅子並べがメインだったりするので、面倒があるはずも無く。
……あると言えば、
「先生、どこか空いてるスペースってありますか?」
思ったら一直線なんだよなぁ。
ミコトは先生にあれがしたいこれがしたいと説明して、しばらく交渉をしていたが、ぺこりとお辞儀をするとこちらに向かってきた。
「読み聞かせは図書委員会がやるからダメだってさー」
会長はそう言うのは把握していてください。
「で、まさかそれで諦める程、アンタは素敵な人間じゃないだろう?」
「さっすがヒロ君、分かってるじゃない☆」
バシバシバシバシ。決して誉めたつもりは無いのだが。
「演劇をやろう」
……事態は悪化の道をただただ辿る。

先生の話によると、体育館を使いたいと言う団体が今年は少なく、三〇分位の時間は確保できるそうだ。
何かもう、本当に話がデカくなっているのだが。
「台本も問題だけど、一番は人よねー。私とヒロ君だけじゃ無理だし」
「生徒会の先輩は?」
「これは生徒会の出し物じゃなくって、私個人の話だからね」
じゃあ何故俺は始めから頭数に含まれてるんだ。
とりあえず図書室で劇でやる話を決めることにした。
「別に、シンデレラやかぐや姫で良いんじゃないか?」
「そんな無難な攻めは嫌だよ。やるなら徹底的に叩き潰すッ」
叩き潰してどうする。
「そうねぇ……鴎外の」
「舞姫は却下だ。作者にとってタイムリーで書きやすいだけだろう? 文化祭でやるような話じゃない」
そっかぁと言うとミコトは更に色んな本を物色していく。
「……自分達で台本を」
「無茶言うな、却下だ。俺にもお前にもそんな才能は無い」
むむぅー。ミコトに否定こそするが、しかし、実際俺も特に思いつく訳でも無く。
「何か条件があった方が探しやすいかもな。闇雲に探しても時間の無駄だ」
「条件……ね。あまり人が出てこないやつかな」
「あと短くできて、人も死なない、くらいか」
うろちょろうろちょろ。三国志は無理だしな、里美八犬伝も無理か。勧善懲悪系はやりやすいと思うが、
「水戸黄門?」
「……ヒロ君、ギャグだよね?」
そりゃそうだろうな。
いざ劇にする話を探すとなると、難しいな。いや、俺が普段から歴史モノしか読まないからだが。
ふと一番上の段にある本を頑張って取ろうとするミコトを見て、
「なぁ、チビッ子しかアンタできなへぶッ!」
頑張って取った本はそのまま凶器として俺の顔面を襲った。
「ちゃんと大きい役だって、できるもんッ!」
「嘘吐けッ! 一四七センチで何言ってぶっ!」
飛べッ、紙ヒコーキ(の作り方)! いやいや、本当に危ないって! うっかりしたら死ぬって!
「ふーんだ、チビじゃない。私は全ッ然チビじゃない……あ」
「ん?」
ミコトが見つけた本は、「サマー・スメル」と言う名の本。作者は手に隠れて見えない。
「それ、読んだことあるのか?」
「いや、何か、友達に勧められた気がする」
そう言ってパラパラとページを巡っていく内に、ミコトの顔は某飲料水のコマーシャルみたく輝いていった。
「これ、いけるよ、うん。面白そうだし」
中を見せてと言おうとしたら、ミコトはタタタと借りに行ってしまった。
内容はまぁ、多分大丈夫だろう。
「後でさ、読んでから、何人いるかとかメールするから☆」
メチャクチャ楽しそうに帰ってきた。
「ちゃんと要約して台本作れよ? 元々の話が面白くても叩き潰しちゃ意味が無い」
分かってるよぅー、と言う返事もかなり浮かれていた。大丈夫かこの子。
メガネをかけた少し赤らんだ図書委員の当番に挨拶して後にする。
そんなにミコトと話せたのが嬉しかったんだろうか。
「帰ったら張り切って台本書くぞー!」
元気だなぁ。

……夜の二三時。
「台本、難しい。ヒロ君もやってみてよ」
「……は?」
「サマー・スメル」を渡され、今、何故か俺も台本書きをしていたりする。何でだ。

まだ続く。

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篠懸高校シリーズ

しかしそれは、俺が関係あるならば話は別だった。義務や責任と言うものが発生するから。
「ほら、ヒロ君、歪んでるって!!」
7月も半ば、例年通り体育祭、文化祭の準備がスタートする時期だ。一年生だから、正確には「例年通り」とは言わないか。
我が篠懸高校は県下ではそれなりに名の知られた進学校だ。祭などと言う下らない(と本当に思っているかは、ノリノリな先生達を見ると大いに疑問だが)行事に授業時間を割けないので、準備は夏休みを使って行うらしい。
一年生の大半はその説明を聞いて大ブーイングだった。
「だーからッ、ヒロ君違うって! 右右ッ!」
「うるさいッ、読者への説明優先だッ」
ただ、準備に関係があるのは文化祭なら文化系部活動だし、体育祭はほとんど準備らしい準備は無い。
俺は無所属で委員会も入っていない。
生徒会はどちらも大変忙しいらしいが、当然、俺の知ったことではない。
……はず、そのはず、なんだけどッ。
「しっかり頼むよー、山城ーッ」
いやいや、俺全く関係無いって、先生知ってるじゃないかッ!
「ヒロ君頑張れー。あとそれやったらひとまず終わりだからーッ」
ミコトがニヤニヤしながら外から叫ぶ。
ひとまずって、まだ何かあるのか。
俺は何百回目かの舌打ちをすると、窓の桟に特大スローガン(何と四階から垂らして一階の床近くまである)の頂点をガムテープで、教室一つ分の横幅のそれを丁寧に貼り付けていく。
これでひとまずは終わりだ。ちょっとした達成感。
「大丈夫ー? 飛んでかないー?」
「多分大丈夫だー、台風が来なければー」
せっかく貼ったのだから、夏休み明けにデロンと剥がれていたら少し残念だ。
直せって言われても絶対断るけど。やはり俺は関係無いから。

外から見ると、校舎にでかでかと紙がぶら下がっているのは迫力があった。
半端無くデカい紙に「酒池肉林」の四文字。書道部の作。使い終わったら糸寸王に差し上げようか。
「山城、ご苦労さん。この後は体育館の飾り付けだから、少し休んだら体育館に来いよー」
「……マヂですか?」
「大マヂだ。人手が足りないから、よろしく頼む」
そう言って先生は去っていく。本来なら俺はもう今すぐにでも帰宅できるのだが。
「ヒロ君ー、生徒会室行こう」
「……こんの、元凶めが」
ミコトは意に介した風も無く、俺の肩をバシバシ叩く。
「だってどうせ暇でしょ? だったら私の手伝いしてよー。大変なんだから」
今はどうしてお前より俺の方が忙しいんだ?
「ま、少し休めるだけマシと思ってさ」
だから、そもそも疲れているのがおかしいんだって。

「そう言えば、何も聞いてないが、生徒会の出し物って決まってるのか?」
パソコンの前に座って牛乳を飲むミコトに言う。ちなみに俺はミコトがくれた、アルプス辺りの水。飲みかけ。
……いや、間接キスも嬉しく無いでスッ?!
「痛い……」
思いっ切り拳骨喰らった。鼻から水が溢れそうになる勢いで。
「私の間接キスを貰って何も無いのー?」
「……プラスチックの味がしみゃッ」
更に拳骨。
「違ーうッ! ありがとう、美味しかったよ、でしょッ?」
何だその新婚プレイッ!
「いや、無理だ、絶対無理。蛇穴に落とされても言えない」
言い切るとミコトはプーッと顔を膨らませて、
「ちぇっ、つまーんないのー」
と抜かした。俺はとりあえず溜め息を返事として、
「で、出し物は?」
「例年通り、かき氷とホットドッグ、綿菓子の屋台と、ホットドッグの早食い大会を体育館で。五分で七〇本食べれる人がいたら、絶対スカウトね」
それはどこのスーパー日本人だ。
「割と無難なんだな?」
「私はいつも面倒なことはしてないよ? 興味の湧かないものは」
この世のほとんどに興味あるじゃないか、あんた。
「ミコトのことだから、演劇やらディベートやら読み聞かせやら乱闘やら、メチャクチャやりそ……」
言ってから、しまったと思った時は大体手遅れで。
「……うだったが気のせいだよな文化祭なんて興味全然無いよねそうだよねミコトさーん?」
もう俺が喋ってるそばから、目が食い物を見つけた時の旅人みたく輝いている。
しまった、大いにしまった。
「……読み聞かせが、私としては一番良いと思うんだけど」
そりゃもう、素晴らしい、天使のような笑顔だろう。俺じゃなかったら完全にノックアウト、一〇〇%胸ドキドキで惚れてしまうに違いない。
だが、俺には悪魔の、逆らえばなぶり殺してくるような悪魔の微笑みにしか見えない。
だから俺の返事は弱々しく、ただ一言。
「……はい」

続く。

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篠懸高校シリーズ

クリスマスネタ

寂しい寂しいヒロ君は今年も一人、サンタを待つの♪
ホントは気付いているんだよ、サンタなんていないこと♪
フッフフーン♪フフッフーン♪ヒロ君はー、寂しい子ー♪
「……うるさいぞ、ユウカ」
今日は一二月二三日。世間様はクリスマスイブイブだヒャッホゥーイッとか騒いでいるが、俺は受験生。
イェス、受験生。ノー、彼女いない歴は自身の年齢の寂しい男のひがみ。うわぁん。
「あ、歌詞変でした?」
「いや……ズバリその通りだ」
再び異常なテンション(いつもそうだが)で踊り出すユウカ。
クルクル、クルクル、クルクルルー……ピタ。
……汗ダラダラ。
「か、彼女いないんですか?」
遅えよ。

勉強(常にユウカが踊っているので身についているかは大いに疑問だが)も一段落し、ベッドに横になる。
その上に馬乗りになるユウカ。もはやその程度ではドキドキしないです、悲しいかな。
「ヒロさん、彼女どうしていないんですか? こーんなに怖……いや、カッコ良いのに」
「今まさにアンタ俺の傷にざっくり塩盛りましたよね?」
そう、ズバリ怖い。それが俺が今までモテない、いや、人に好かれない理由だそうだ。
まぁ、今更気にはしてないが。
「はぁー、なるほど。あ、うちのユウちゃんとかどう?」
ユウカがニヤニヤしながら言う。俺は寝ていた体を起こしてそのデコを指差し、
「な・ん・で、そうなる?」
グリグリ。痛くないと言うか、そもそも感覚が無いはずなのにユウカが唸る。
「あうー、だって、いつも一緒だしー、前回の原色だってラブラ」
「お前、何で知ってる?!」
「原色、読みましたから☆」
待て待て。幽霊はどこまで自由なんだ。
とりあえず、ユウカがどこからともなく取り出した原色を読んでみる。
ページをめくろうとして、
――ピンポーン。
階下でインターホンが鳴るや否や、
「メリクリブイブッ!! ヒロ君、来たよッ」
台風娘を呼んだ覚えはない。俺がトボトボと玄関に向かうと、
「こーんにちわぁ」
初めて我が家に来るユウがオドオド入ってくる。
「あぁ、こんにちわ」
「あ、ユーウちゃーんッ☆」
ユウカがユウに抱きつく。と言うか襲う。
ミコトとユウがそれとジャレ合う。我が家に猫が三匹やってきた。
「で、何の用だ? まさかこれから」
「ユウの家行きましょ、ヒロ君。どうせ暇でしょ?」
イェス、受験生。ノー、暇人。
首を横に振る間も無く、ミコトに拉致られる。楽しそうに笑うミコトとユウが、ジングベージングベーと歌いつつ、一同の足は駅へ向かう。
え、駅?
「……なぁ、ユウの家って?」
「大丈夫、電車で二○分位ですよ」
何が大丈夫なのか、俺にはサッパリ理解出来なかった。
遠過ぎるだろう。
「毎日車で学校来てますから、大丈夫ですよ」
そうだけど、そうじゃなくってな。
何でユウが篠懸に来ているかと言う疑問を乗せて電車は走り出す。

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篠懸高校シリーズ

「アンケート調査の裏側に密着(後)」

「今日の朝は生徒会のアンケートに協力して頂きます。学年のみで、名前は必要ないので、正直に記入して下さい」
ミコトの放送と同時に俺が作ったアンケートが配布される。
「なぁ、これ、何?」
周りの数名が尋ねてくる。生徒会の仕事に俺が関与しているのは周知の事実だ。
「質問に従って正直に答えろ、以上」
「いや、それ位分かるよ。目的とかさ、無いとやる気が」
言った奴を一瞥。ちゃんとやれよ? と目で訴えてやる。
「……はい」
まぁ、内心少し申し訳ないのだが。
先生達が色々それを見て話をするのは本意の次だったりするから。
要は、ミコトと俺が読んで楽しみたいだけで……ゴメン皆。
と、周りを見渡すと割と皆真面目な表情で取り組んでいる。
皆も楽しそうか。またミコトが味を占めなきゃ良いが。

回収を終えて授業も終えて放課後。
ミコトと二人で生徒会室でやたら多い紙を整頓して、中を見ていく。
先生から、ちゃんと人物を表にして回せと言われているので、メモも取らなきゃならない。
……下校時刻までに間に合うかな。
「意外に皆真面目に答えるんだねー」
そもそもが遊びとは言え、その発言はいかがなものか。
「まぁな、真面目じゃなかったら、ジャン・ジャック・ルソーなんて書かないだろうな」
本当に意外なのは、予想されていた芸能人とかの名前はそれ程多くなく、頭良さそうな解答が多かったことだ。
「福沢諭吉、と……理由が“学問のすゝめが沢山売れたから”だそうだ」
「どこのドワーフよ、それ」
その突っ込みは何人に通用するのだろうか。
「あ、アドルフ・ヒトラー」
「ほら、ヒロ君ッ! やっぱりいるんじゃない〜☆ヒトラーはスゴいひt」
「理由、ベジタリアンだから」
「えぇッ!?」
などなど突っ込みを一々入れながらの作業は申し訳ないが、なかなか楽しかった。
ちなみに、気取って、英語で外国人の名前を書いた人の4割は綴りが違った。
書き間違いでは「福沢諭血」が一番笑わせてもらった。次点は「小泉鈍一郎」。
朝一で寝ぼけてるとは言え、これは酷い。

作業を始めて一時間半。残り少なくなってきた所で、ある一年生の解答。
「……マヂか」
「んー? どしたの?」
ミコトが俺の持つ紙を見ようとする。それを手で制する。
「いや、ちょっと意外だっただけだ」
「ふーん?」
怪訝そうにしながら作業に戻るミコト、助かった。
アンケートには、
尊敬する人……ミコトさん
尊敬する理由……大好きです

とあった。
はぁとげんなりして、また作業を再開。
……そして同じ解答に再会、ちょっと待て。
マヂか、とこぼしつつ作業を終えた。最終的にミコトへのラブコールは十一枚あった。多ッ。
まだミコトは作業をしている。何となく見ると、確かに可愛い。
しかし、性格がマイナス要素になり過ぎ……。
「ヒロ君? どうしたのー?」
視線に気付いたミコトがこちらを見る。
急に恥ずかしくなったので、何でもないと視線を移すと、
「……んー」
ミコトが今度は俺を見ながら、
「変わってるなぁ」
ボソリ。
「!? な、何がだ?」
「あ、違う、ヒロ君じゃなくて……えっと……気にしないで☆」
「??」
よく分からないが、もうミコトも作業を終えたようだ。
「あー、楽しかったけど疲れたー。さ、ヒロ君、職員室行きましょ」
そう言ってメモした紙を持って出て行く。
これを恐らく先生達は先生達で楽しむんだろうな。

勿論だが、アンケートの中に先生の名前は誰一人としてあがらなかった。

そして次の日、
「な、なぁ、ミコトさん、ちゃんと読んでくれたんだよなッ?」
と、何ともズレた男子が十一人やってきたのは言うまでもない。はぁ、全く……。

――おしまい☆

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篠懸高校シリーズ

「アンケート調査の裏側に密着(前)」

「うちってさ、結構貧乏でねー」
どうして生徒会長になろうと思ったのか(しかもあんな無茶をして、だ)、問いただして返ってきた返事がこれだ。
6月も半ばに差し掛かり、ジメッとした空気を余所に、生徒会室はとても快適だ。
役員は数名いるものの行事は特に無いため、今室内には俺とミコトのみ。
まぁ、このヒトラーよろしく超独裁的な生徒会長のせいで役員はいつも来ないのだが。
「ヒロ君、ヒトラーはスゴい人だよ?」
!!
「え! いや、はい、知ってマースヨー?」
驚きでカタコトになった。不審そうにミコトはこちらを見る、ジロ~。
「まぁ、色んな意味で、だけどね。でさ、提案なんだけど……」
「絶対、嫌だ。反対に一票、だ」
間髪入れず俺が反対すると、ミコトは口を尖らせる。
「お前がそんなだから、人手不足で困ってるんだろうが」
ミコトの無茶な提案は最終的に力押しで通ってきている(大体が遊びなのだが。全校生徒鬼ごっことか)が、それが理由で生徒会は実質ミコトと俺の二人で動いている。
しかも俺、役員じゃないし。
「良いじゃない、それでも地球は回ってくんだから」
「いきなり壮大な話になったな」
そして、加えて厄介なのは、この会長が超敏腕で、他の役員無しでほとんどこなせてしまうのだ。
この能力を「貧乏だから」身につけたのならば、相当スゴい。
また、先生受けが何故かすこぶる良い。成績がトップクラスだからなら、この学校は間違いなく大人社会の一員だ。
ミコトを見ると、両手合わせてニコリ。頼むから遊ばせて、だそうだ。
……まぁ、逆らえばどうなるかは分かってるしな。
「はぁ……何をするんだ? 今度は」
一気に晴れる表情。先生と言う名のオッサン達は間違いなくときめくであろう、最高の笑顔。
それすらも俺には悪魔の微笑……いえいえ。
「全校生徒一斉アンケートを実施しようと思うの」
? えーっと……。
「それ、大分普通じゃないテッ!?」
スリッパでスパーンと叩かれた。この部屋に備えられている「対不審者用スリッパ」である。
ちなみにやはり、ミコトが勝手に名付けた普通のスリッパだが。
「私はいつも普通よ」
「あー、ハイハイ。で、何のアンケートだ?」
「尊敬する人アンケート。皆が尊敬する人を聞いて、今後に活かそうって訳」
それは何の今後だ。
「んー……それ、丸罰やマーク式では聞きづらいだろう? 俺らの持ち時間(?)じゃ無理じゃないか?」
言うと、うーんと唸るミコト。ちゃんと考えてから提案してくれ。
除湿機のブォーンという音のみがしばらく響いた後、
「各クラスの7時間目の授業時間を使って痛ッ!」
スパーン。
やっぱり普通じゃない、コイツは。

結局、色々(一人で)考えた結果、簡単な四つの質問を書いたアンケートに仕上げた。

・あなたの尊敬する人は?
・その人はどんな人ですか?
・どこを尊敬してますか?
・生徒会にメッセージをッ!

ふむ、我ながら上出来だ。朝一の暇な五分で簡単に答えれるし。長々と語られないように、解答欄も小さめだし。
ガラガラと、先生から許可をもらったミコトが入ってくる。その顔は素敵な営業スマイルだ。
許可をもらう前から制作にかかっているのは気にしないで下さい。
「……質問が少ないー」
パソコンの画面を見るなりブーブー文句を言う。
「お前が俺に全権を譲っただろうが。これで良いんだ」
「えー、十問は欲しいなぁ」
ちびっ子みたくだだこねる。まぁ、実際ちびっ子なんだk
「誰がちびっ子だって?」
「いや、えっと……。つーか何で分か痛ッ」
再びスリッパで叩かれる。
「……先生に何て言って許可もらった?」
頭をさすりながら聞くと、
「朝の小テストの無い日の五分位でアンケートやりたいんですが、ダメですかぁ~? って。何? ヒロ君はこの猫なで声が聞きたか痛いっ」
そんな気色悪い声に興味無いです。
「だろ? 五分で答えるにはこれ位になるの」
と説明すると、ふーんと言ってプリンターの傍に寄る。
紙のスタンバイをしてくれるらしい。こう言う小さな優しさは嬉しいのだが。あ、手が止まった。何かを考える仕草をするミコト。
「……全校生徒って何人?」
「千八十人のはずだ」
「紙代って、やっぱり……」
「今更止めるとか言うなよ?」
ちょっと楽しくなってきたから、とは決して口にしない。
紙代はバッチリ生徒会費から出され、今後しばらく大それた活動が出来なくなったのは余談。

――続く

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続きを書きたい気分

篠懸高校シリーズ

次の日、朝から全校生徒は体育館に集結した。あぁ、やっぱり多いなぁ、人。
昨日の集会で一度見ているとは言え、小さな中学校の頃では考えられなかった人数が体育館に詰まっている。
そして俺は指定された席には座らず、ステージの袖に、隠れるように待機。
生徒からも先生からも死角になる位置にしゃがむ。
――バレたら、どうなるか分かってるね?
ミコトの言葉を思い出して小さく震える。先生には間違いなく怒られ、ミコトには恥ずかしい過去をバラされる。
一年生でそんなことになったら……耐えられないな、流石に。
「えー、全員揃ったようなので、これより生徒会役員選挙を行います」
教頭の渋い声が響く。うわ、緊張してきた。

「明日何があるか知ってる?」
生徒会に入りたいと言う奇特な方達の挨拶の最中、昨日のミコトの言葉が浮かぶ。
「生徒会の役員選挙があるの。立候補者がステージの上で演説をして、教室戻って投票だって」
何でそんな事情に詳しいんだと聞いたら、先輩に聞いた、だそうだ。
「ほぅ……で、俺に何をしろと? 恥さらすのはヤダぞ?」
「大丈夫、ヒロ君にやってもらいたいのは……」

「えー、皆さんおはようございます。僕が今回生徒会長に立候補した……」
生徒会長が喋り始めた。俺は急いでステージに踊り出る。チラと生徒側を見ると、ミコトがニヤリとして走ってくるのが見えた。
生徒はおろか先生達すら予想外の事態に戸惑っていた。
よし、ひとまず成功か。
「ちょっとスイマセン、ねッ」
俺は生徒会長立候補者(ひょろひょろの眼鏡君)を軽く担ぎ上げるとステージから下ろした。
同時にミコトがステージに上がる。少し浮かぶ汗を拭い、
「ハァ……グッジョブ」
息を整えながら小さく俺にガッツポーズして見せる。そして、
「驚かせてスイマセン。私が次期生徒会長に立候補した、一年、大和ミコトです」
ミコトのスピーチの開始。
俺の仕事は睨みを聞かせてその後ろに立つことだった。
既にナンパされた女子を助けた英雄として、先輩をボコボコにした豪傑として名は知られまくっていたため、遠くから先生が怒鳴る以外は何も起こさせなかった。
それに加え、この弁論力だ。最初はヤンヤヤンヤ言っていた人も、最後には無言で聞き入っていた。
飽きさせることのない、テンポの良いスピーチ。傍で聞いていて驚いた。
「……これで終わります。ありがとうございました。もし、私に投票して頂けるのなら、投票用紙の欄外に、大和ミコトと書いて下さい。お願いします」
そうして一例すると、凄まじい拍手が起こった。
校長もコレ位の話が出来れば退屈しないんだが。
と、入学式で睡眠を誘ってきた校長を一瞥したのは内緒。

放課後放送された投票結果は、圧倒的な差をつけてミコトが生徒会長となった。
放送する教頭の声が特に驚きを交えてなかったのを聞くと、どうやらミコトの評価は先生達の中でも悪くは無いらしい。
先生が複雑な表情をして拍手を送って、はじめて少し申し訳なくなった。
生徒からはスゴい量の拍手と歓声だった。はぁ……すげえなぁ。

「今日はありがとうッ! これで念願の生徒会長になれたわッ」
とても嬉しそうにミコトは帰りに言った。俺の手を取りブンブン振っている。
「あぁ、そりゃ良かった。しかし……先生には申し訳無かったな」
「え? 何で? 私あれから何人もの先生に『スゴいスピーチだったな』って誉められたよ?」
そ、それで良いのか先生たちよ。
「さぁ、大変なのはこれからよ。ヒロ君、生徒会室行きましょ。まずは、私が使い易いようにしないとッ」
俺生徒会のメンバーじゃないのですがって抗議も無理ですかそうですか。
「全く……何で俺が」
「良いの? バラして」
いえ……。

そんなこんなで始まった俺の高校生活は、思ったより大変そうです。
……この妙な幼なじみのせいで。

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テスト前だからか、単にゲームのやり過ぎか

篠懸高校シリーズ

4月。それは始まりの季節。俺もまた、その決まりに準じて今高校の入学式に向かっている。
ポツンと小さな山の上にこれまたポツンとあるのが篠懸高校だ。
『相当自意識過剰高校』とは今年卒業した親戚の弁。レベルはそこそこ高いが、そこに通えることを自慢する生徒が多いらしい。
あと、ただの洒落でもある。
「あー、疲れた」
俺は精一杯こいできた自転車を指定場所に止める。
「これを毎日登るかと思うと、通いたくないな」
車通いのブルジョワ(?)が本当に羨ましく思えた。
一呼吸置いて俺は体育館へと向かう。もう数分で式が始まってしまう。
途中見かけた新入生は、皆々似合わないブレザーを着て(自分のことは棚に上げておく)、緊張した面もちだ。
自分だけじゃなかったとホッとしていると、
「……めて、やめて下さいッ」
違う緊張の含んだ声が聞こえた。顔を向けると、三人の男子(恐らく上級生だ、制服が似合っている気がした)に女子生徒(こちらは新入生)が絡まれてる。その周辺だけ、嫌な雰囲気が漂っていた。
昔から、正義感とか無いしそう言う感情は嫌いだが、空気を読めない、所謂調子に乗った奴はもっと嫌いだ。
フラフラと近づくと、
「ちょっとすいませ、んッと」
肩を叩くと同時に一人にボディーブロー。
「! てめぶッ!?」
殴りかかろうとしてきた正面の敵に対し顔面に拳。
「……先輩、カッコ悪いですよ」
背中を向けて逃げようとする残り一人には思いっ切り飛び蹴りを浴びせる。
小悪党グループを倒した。特にアイテムも金も落とさなかった、当然だが。
思った以上の脇役っぷりに少々同情。しょうがない、彼らは主役を立たせるためのキャラだ。
パンパンと制服を払って小さく伸び。
「あー、緊張ほぐれたかも」
何となくスッキリした気分になり、体育館に入ろうとする。と、
「ヒ……ヒロ君? だよねぇ?」
ん? この声は……。
俺は助けた女子の方を振り返る。驚いた表情の彼女、少し嬉しそうだ。しかし、
「……ど、どちら様?」
返事は、思いっ切りの笑顔とボディーブローだった。

「酷いよね、いくら何でも、家が隣の幼なじみの顔を忘れるなんて」
式が無事終わった後、助けた女子もとい幼なじみ、大和ミコトは俺の隣の席(確か、播磨君とかいう人の席。一揆を起こさないことを祈るばかりだ)に座ってひたすら愚痴を言いまくった。
「お前、私立中学だろう? 三年もまともに顔見てなかったら忘れるに決まっテッ?!」
今度は拳骨。こんなに暴力的だったか、ミコトって。
「私はちゃんと分かったよ。ヒロ君、昔と違って強くなったねぇ。昔はちょーっと小突かれるだけでワンワ痛ッ」
今度は反撃してやった。恥ずかしい過去を暴かれたらたまったものでは無い。
昔……そう今普通に話しているが、ミコトは昔はもっと口数少なく、大人しい子だった。三年でそんなに変わるものか、人のことは言えないが。
「ヒロ君、背もスッゴい高いし、ケンカも強いし。何故か迫力あるし……」
最後のは誉めてるのか?
「良かったぁ、すぐに頼めそうな人が見つかって☆」
少女みたいにニコニコするミコト。これは昔から変わらない合図だ。
すなわち、何か良からぬことがある合図。
「……ミコト、スッゴい嫌な予感がするんだが?」
ミコトのニコニコが一瞬ニヤニヤに変貌したのを見逃さなかった。
あー、くそッ。
「大丈夫、ヒロ君なら適任だよ、うん」
そしてもったいぶる様に間を置く。
「一緒に、小さな小さな革命起こさない?」
……は?
間抜けな俺の声と同時に担任の先生が入ってきた。じゃあね、とミコトは去る。か……革命って何かな?

簡単な自己紹介の後、俺はミコトに駆け寄った。
「おい、ちょっとお前」
「話はあそこでしよう。人が多いとこじゃね」
そう言ってミコトは俺の手を引き、誰もいない図書室に連行した。
「一つ、いや本当は一つじゃないが、とにかく、質問して良いか?」
「何?」
ニヤニヤしているミコトはどう見ても正気だった。だからこそ、どこか異常だった。
昔の大人しいミコトは見る影も無く、そりゃあもう元気がとりえですッと言わんばかり。
の割に、自己紹介はおしとやかにまともに終わらせていたが。
「頭大丈夫か? 入学早々革命なんて……花粉にやられたか?」
俺が肩を掴んで揺らすと、ミコトはペシと俺の頭を軽く叩いた。
「ヒロ君、良い?」
「……何だ?」
ミコトが一歩後ろに下がる。俺の射程外に逃れるように、サッと。
「私は花粉症じゃない」
いや、そこは重要じゃないだろ。
「……じゃなくって、ヒロ君に拒否権は無い」
は?
「ちょっと待てお前ッ!! それはどう言う」
「じゃあッ」
語気を強めてミコトが俺の言葉と間合いを詰めるのを遮る。
力強く真っ直ぐ伸ばした右手には、異様な迫力があった。
ゆっくりと口を開く。
「私が私立中に行くこと決めた時のこと」
……?
「皆に話すよ?」
! えっと、それは、
「スイマセン分かりましたからそれだけは勘弁を」
いや、本当に恥ずかしいってあれは。読者にもここは話せませんよ? 解説も無し。
それにしても、まさか弱みを握られてるとは。恐るべし、ミコト。
あれ、でも、
「じゃあお前の過去もバラすぞ?」
「そうしたら? 別に私恥ずかしい過去無いもの」
見事に撃沈でした。
……圧倒的に不利ですか、俺。
「まあ、別にそんなに大掛かりなことじゃないから、ネ? 協力してくれない?」
ニコニコ言うミコトを前に、俺はただ頷くしかなかった。
あー、カッコ悪う。

――続く☆

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眠れない夜は寝ない(うわぁ

篠懸シリーズ番外編。

「リコってさ、上総君のこと好きなの?」
休み時間、エコこと磐城ヤエコが突然口にした。何の前触れもなく、だ。
「んー? あんたも下らない噂なんか信じるクチ? 昔からの付き合いのミツキと仲良さ気に喋ってるから好き合ってるなんて……バカみたい」
上総ミツキとデキてると言う噂は昔から絶えないが、今回のは異常なまでに広まっている。先輩からも冷やかされるまでに。
「やっ、そゆんじゃ無いけどさァ。……そうだよね、そんな訳無いよね」
少し赤くなりながら、エコはそれきり黙った。全く、エコまで敵になったら私はどうすれば良いんだ。
色んな怒りが起きて、ふと何気なくミツキの方を見る。奴もちょうどこっちを見て、意味深な苦笑いを浮かべた。小学校からの悪い癖。
『噂、厄介だね』って意味だ。私も似た様な表情を反射的にしていただろう。
いつになったら直るんだろう、悪い癖。

「……か。おい……さかッ」
何だよぅ、ウルサいなぁ。こっちが気持ち良く寝てるって……え?
「おいッ、美作ッ! なーに寝てんだ。授業、ちゃんと聞けよ」
だらしない顔を上げると、先生がため息と共に授業再開。はぁ、何やってるんだろ、私。教室に小さな笑いが起こる。あー、い辛い。
調子が悪いな、噂のせいか。まぁ良いや、何でも噂のせいにしちゃえ。
「先生、体調悪いんで」
と告げると私は教室から出た。勿論、先生の頷きを確認してからだが。
とりあえず保健室で寝ようか。一年生の一○月なのに、もう何回行っているだろうか。
「あら、またアンタか」
保健室の加賀先生はいつも無愛想だ。今でこそ慣れたが、最初の頃は本当に怖かった。
「一番奥、空いてるよ」
ぶっきらぼうに指を差す。先生は何か物騒なモノのカタログに夢中らしい。
私は見えてないだろうが小さく礼をして一番奥のベッドで寝転がる、と、
「! ど、どうも……」
少し開いていたカーテンの向こう、男子と目が合った。私がぎこちなく挨拶すると、その厳つい顔を少しだけ緩めて、
「どーも」
と返してきた。それきりかと思ったら、
「アンタ確かミツキとデキてるらしい、えっと……」
私は突然真顔で喋ってきた男子に、内心ブン殴りたい衝動に駆られながら、
「美作リコです。上総ミツキとはなーんにもありません、残念でしたッ」
と、返した。向こうからは舌打ち……では無く、へぇ、と言う相槌。ナニソレ、そっちから聞いてきたのにそれだけ? ……って何私は期待してるんだ?
「デキてないのか、そうか。確か幼なじみだっけか? お互い、変な噂に付きまとわれて大変だな」
苦笑がちに男子は言う。何を分かったつもり? お互い? アンタに私の辛さが分かるの?
「ちょっと、さっきから何な……の」
カーテンを開けながら言った言葉は語気が徐々に消えていった。
カーテンの向こうの男子は、一年生にして生徒会長を務める大和ミコトのパシリ兼ボディーガード、山城ヒロだった。
私が驚いていると、普段(と言っても生徒会長の隣でムスッとしているのしか見たこと無いが)では考えられない爽やかな笑顔を返してきた。……ミツキと似てる気がする。
よっ、と言ってベッドに座る山城君。一年生には到底見えない貫禄だ。
「好きでも無いのに、好きだ好きだなんて騒がれりゃ体調も壊すよなぁ」
「それで?」
私の不自然な返答に、小さく手を振る山城君。
「今回は、あの怖いお姉様のお仕事で」
と言ってズボンをまくる。包帯で真っ白だった。
「だ……大丈夫ッ?」
「ま、単なる打撲らしいが。俺も最初はミコトとデキてるとか言われて参ったなぁ」
ありえないだろ、と付け加えて笑う。あぁ、やっぱり私とは違うな。
「……大和さんを好きになったこと、ある?」
気づいたら、そう言っている自分がいて、自分の口をハッと塞いだ。初めて喋った人に何を
「あるよ」
サラリと、意外そうな顔もされずに答えは返ってきた。意外そうな顔をしているのは私の方だった。
「つっても小学校の時とかだがな? いやぁ、あの時のミコトはまだ可愛かった。大人しいし、真面目だし。それが、私立の中学行ってから……はぁ」
大きな山城君のため息を吐く仕草がコミカルで、少し笑ってしまった。気に障った風も無く、山城君も笑った。
「じゃあ、今でもずっと幼なじみのこと……」
すぼみがちで最後まで多分聞こえてなかったと思う。だが、
「別に変じゃねぇよ」
と言って笑う。ぶっきらぼうだが、とても嬉しかった。
「ありがとう」
山城君は少し照れながらどーもと返して、ベッドに再び寝転がった。

放課後。
ミツキに声をかけようと思ったが、先にエコが私に話しかけてきた。
「ねぇ、相談に乗ってくれる?」
「……ゴメン、それには乗れないわ」
え? と言った顔をするエコ。まだ何も言ってないよと、怪訝そうな顔だ。
ゴメン、ずっと知ってた。噂が起こった時、スッゴい凹んでたことも。私が否定する度、スッゴい嬉しかったことも。
だけど、だから、聞けないんだ。
「私にだって、ミツキを好きになる権利はあるでしょう?」
――ミツキのこと好きなんて、そんな訳無いよね。
思ったより、エコの言葉を自分でも根に持っていたようだ。
「私が、ミツキ好きで悪かったね」

それは、本当に小さな声で、本当に小さな勇気。でも私にとっては大きな大きな一歩。
山城君、ありがとう。私、頑張るよ。

保健室にて。
「……どうしたの? ヒロ君」
「いや、俺……病気かも」
ひたすら恥ずかしがってる男子一名。

♪♪

……寝れないからって本気出し過ぎですかそうですか。。。

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