篠懸高校シリーズ
『いつかあなたが手にした何かは、まだそこにありますか?』
そう帯に書かれた本、『サマー・スメル』。元々、読書は特に好きな訳では無い。嫌いでも無いがつまり、積極的に読まないと言うことだ。
ミコトから渡され、台本を書くために読んでみたが、すらすらと読める良い話だった。
『前触れも無く送られてきた手紙。昔の友達に誘われ、二年ぶりに田舎へ戻ることにした『僕』。
三時間の帰路の中で出会う様々な人と触れ合う内に何かを思い出していく』
少し不思議な感じをいかに表現するか、台本なんて書いたことが無いから、夜中の一時にようやく使う場面を取り出せた。三〇分でできるようにまとめるのは大分苦戦しそうだ。
むぅ、眠いな。明日から夏休みとは言え、夜更かしは良くない。
いや……よく考えたら、別に今日仕上げる必要は無いんじゃないか?
ふと頭にニヤリと笑う元凶が浮かぶ。……流石は幼なじみと言ったところか。
「あー、よく分かってるな」
寝ようかとも思ったが、やりっ放しと言うのはどうにも気持ち悪い。
流石は幼なじみと言ったところか。
パソコンのキーを叩いて叩いて叩いて叩いて……八杯目のコーヒーを飲み終わる直前で完成。気付いたら、夜中(?)の四時だ。ザッと完成品を読んでみる。初めての割にはなかなかの出来だと思う。
よし、寝よう。下手したら昼まで寝るな、しょうがないしょうがない。
――思いやり無い元凶は朝九時に我が家の目覚まし、つまりインターフォンを鳴らした。
殺す気か……。
這うようにして外へ出ると、ミコトも何故かグッタリしていた。
「おはようぅ……お疲れ様ぁぁ」
這うように吐き出された声もやはりグッタリ。
「えっと、どうした?」
何故か頑張った俺が少し申し訳無さを感じた。
「いや、ヒロ君のことだからスッゴい一生懸命やってくれるんだろうなぁって思ったらさぁ」
ふらふら近付いてきて、パタリと体ごと倒れた。腕で支えようとしたが間に合わず、地べたにドシャア。も、申し訳無いです。
「台本、私もしっかり完成させるべきだなぁぁってぇ、あぅぅ」
……吐くなよ?
「完成させたら五時だよ……あぅ」
それなのにこの時間に起床ですか。
「わ、分かった分かった。とりあえず上がれ、台本見せ合おう」
上がるなり勝手に冷蔵庫を開けて牛乳を一リットル飲み干しやがった。
「ふっかーッつ☆さぁ、台本見せてッ」
白いヒゲをつけた酔っ払いに努力の結晶を渡す。こうやって印刷された紙を見ると、達成感があった。分厚いなぁ。
途中、
「あぁ、動作も書かなきゃダメだよね……忘れてた」
とか、
「このシーンってヤッパリ重要なんだ」
とか、色々不審な呟きが聞こえた。ミコトの台本をパラパラ読むと、セリフのみ書かれたかなり不思議な作品だった。
二〇分、じっくり時間をかけたミコトはゆっくり顔を上げる。台本をソッと傍らに置くと長く一回息を吐いて、突然、
「君は最高だよッ!!」
抱きつかれた……抱きつかれた?! 俺は一瞬の間の後、引き離そうとするが、どうしても離れない。
さながら口の中の髪の毛。
「ヒロ君、国語得意? そして演劇好き?」
「どっちも、お前よりはな、って言っておこう」
抱きついた状態から繰り出された頭突き。
危うく出血するところだった、主に鼻から。
言うまでもないが、成績は圧倒的にミコトの方が良い。彼女の名誉のために言っておこう。
「よし、これで行こうッ。ダメなら、練習中に直そうッ」
良いのかそれで。
ミコトは自分の分のコピーをして、それを終えると、「じゃあ私は寝るッ」と残して去っていった。本当に嵐のようなやつだ。
一安心したところで、俺も寝ることにしよう。きっとスッゴいよく眠れるだろうな。
まだまだ続く☆


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